会員から会員へ リレーエッセイ 「もし税理士でなかったら」インクライン 2026.8月号
開始日:2026-08-01
もし税理士でなかったら
広報委員長 池田 陽
●プロローグ
もし税理士でなかったら?と問われたら「レーシングドライバー」と即答する。残念ながらモータースポーツとの出会いが遅くプロにはなれなかったが、自分の資質を最も活かせた職だったと感じている。そこで、自分史を振り返りつつ、レーシングドライバーの奥深い世界について触れてみたい。
●幼い頃の夢 ~短距離選手×科学者~
小学生の頃の夢は、短距離走の選手だった。6年間クラス対抗リレーの代表に選ばれ、体育祭はとても楽しかった。一方で、幼少期から論理的な思考を好み科学者にも憧れていた。その後自転車やスキーなど「道具を使うスピード」に傾倒した。そんな折、テレビでF1放送が始まりモータースポーツの虜になる。エンジンの力があれば体力がなくとも容易にスピードが出せる。公道でのヒヤッとする経験を経て、より安全なレーシングカートの門をたたくことになった。
●レーシングカートの世界
レーシングカートは、モータースポーツの底辺でありながら、最高峰へと直結するカテゴリーである。多くのF1ドライバーが幼少の頃から腕を磨き、セナやハミルトン、フェルスタッペンら歴代の王者や、小林可夢偉もここから頭角を現した。世界ラリー選手権で日本人2人目の優勝という快挙を成し遂げた勝田貴元もカート出身者である。
一見遊園地のゴーカート風だが、その実態は極限まで無駄を省いたレーシングカーそのもの。運転を助ける装置は一切なく、ステアリング、ブレーキ、アクセルという3つの動作を正しく操作(入力)しなければ、まともに曲がらない。ところが、これら3つを適正に(=車が本来持つ「物理の法則」通りに)入力し、いわゆる【荷重移動】が出来るようになると、面白いように曲がり、途端に安定する。そのためドライビングの基本を学ぶには最適な道具と言われている。
●ドライバーに必要な能力
マシンの持つ「物理的な限界」ギリギリの状態を保つことが、レーシングドライバーの仕事である。このときの心理状態は「ずっと平均台の上で走っているような感覚」である。ゆっくり歩くならリスクは少ないが、速度が上がると難しくなる。ストレートでは平均台の幅が広がるため誰でも直線は飛ばせる。しかし難しいコーナーほど平均台の幅は狭まり落下するリスクが高まる。また雨が降れば更にリスクが高まる。
加えてドライバーはタイヤやブレーキなど、膨大なパーツの僅かなセッティングの違いを感じ取り論理的に分析しなければ速さを再現できない。
このように、常に身体のセンサーを研ぎ澄ませ、限界を超えないギリギリの状態を保つための高い集中力と、マシンのメカニカルな状況を論理的に分析し理解する思考が求められる。
●モータースポーツにおける『スポーツ』
最高峰のF1では、コーナーによっては横Gが約5Gも発生し、首には真横から約35キロもの重力がかかっている。これに耐えるためドライバーはコーナーの度に呼吸を止めレース中の平均心拍数は一般の全力疾走と同等の170回/分を超え、200回を超えるときもある。「全力疾走しながら断続的に息を止め、冷静に頭脳戦を行う」という過酷な環境は、彼らがマラソン選手並みの心肺機能を備えていると言われる所以だ。
ちなみに、入門用のレーシングカートでも2G以上の負荷がかかる。久しぶりにカートに乗った際、AppleWatchから異常な心拍数(約150回/分)と警告された。身体が動いていないのに心拍数だけが跳ね上がったためだろう。しかもタイムは「小学生クラス程度」でこの負荷。恐るべしモータースポーツである。
●おわりに
当時30歳を過ぎていた私の現役時代のライバルの多くは中学生たち。彼らの中から今も第一線で活躍するプロドライバーが生まれているのを見ると「 自 分も幼少期から始めていたら、、、」と考えてしまう。
ところで、世界最高峰のF1ドライバー達が絶賛するサーキットが私たちの近郊にあることをご存知ですか?日本が世界に誇る「鈴鹿サーキット」です。所定の手続きを踏めば、意外なほど簡単に、愛車で走行可能です。ご自慢の愛車で、五感を研ぎ澄ます「モータースポーツ」の世界を体感してはいかが?