インクライン2026.8月号 「環境変化をチャンスに!」~時代の波を乗りこなす事務所経営~を掲載しました。
開始日:2026-08-01
「環境変化をチャンスに!」~時代の波を乗りこなす事務所経営~
洛東支部長 福島 一浩
税理士を取り巻く環境の変化
私が税理士事務所に就職した平成16年はまだ電子申告が普及しておらず、3月15日には若手職員が大量の確定申告書を持って1日がかりで市内の各税務署を回るというイベントがありました。また、「税務署の受付印が無いと銀行の融資が受けられないから電子申告はしない!」といった声もあったことを記憶しています。
平成20年にはiPhoneが日本で発売されました。
最初は使いづらく、ガラケーと2台持ちしていました。
平成25年頃からクラウド会計システムが登場しました。当初は爆発的に普及した訳ではありませんでした。
しかしながら、今ではいずれも業務に欠かすことのできない当たり前のものとなっています。
さて、今度はAIエージェントです。個人情報の取り扱い、税理士法との関係などクリアしないといけない問題点もありますが、近い将来当たり前のものになることは間違いないでしょう。
AIエージェント時代の経営とは
AIの進歩は凄まじく「1ヶ月前の情報は賞味期限切れ 」で使い物にならないといった状況です。
特にAIエージェントの登場は単なる業務効率化ツール にとどまらず 、業種によってはビジネスモデルの再構築を迫られる場面も出てくることでしょう。
これまでの成功体験などの過去の延長線上での未来予測は限界を迎えており、目標とする未来の姿を定め、そこからの逆算でいま何をすべきかを考える「バックキャスティング思考」の経営がこれからより一層求められていくと感じます。
関与先が税理士に真に求めていることとは
マーケティングの巨匠セオドア・レビットの有名な格言で「ドリルを買いに来た人が、求めているのは『穴』である。」というものがありますが、顧客はその商品の機能が欲しいのでは無く、問題解決の方法を求めているということです。
TKC会計人のビジネスモデルは自計化システムを導入し、月次巡回監査を実施することです。FXクラウドシリーズ、銀行信販データ受信機能、証憑保存機能などの新たなシステム等の開発により、関与先にとっても事務所にとっても業務の効率化を図ることができるようになりました。
しかし、中小企業の経理業務の効率化を図ることはもちろん大切なことではありますが、それはあくまで機能的な価値を提供しているに過ぎず、経営者が税理士事務所に対して本質的に求めていることは「TKCシステムを通じて自社の経営課題をどう解決してもらえるのか」ということだと思います。
その経営課題も企業ごとにさまざまですので「相手はどんな人で何を求めているのか」ということを深く考えることが大切だと思います。
抽象的な表現ですが、我々に求められていることは「関与先のビジネスをより良い方向へ」導くことだと思います。
税理士にしかできないサービスは何か(税理士の存在意義)
AIエージェントの登場により今後「記帳」という作業の大部分は自動化されることと思います。
しかしながら、情報の信頼性を保証するためにはその作成プロセスが適正であることが不可欠であり、それが坂本孝司全国会会長の提唱する「三現主義に基づく巡回監査の実施」です。
三現主義に基づく巡回監査の実施はAIにはできない部分であり、この部分をきちんとできるか否かが今後、税理士としての存在意義が問われるポイントになると思います。
さらに、巡回監査というプロセスを証明する手段としての「書面添付」は税理士にしかできない保証業務であり、税理士には書面添付を通して決算書の透明性を証明し、税務当局、金融機関等との情報の非対称性を解消することが求められています。
見ない人には実在しない運命の岐路
飯塚毅初代会長は「見ない人には実在しない運命の岐路」として「あるものを認識し得ない人たちにとっては、そのものは存在しない、細菌の恐ろしさを認識し得ない人たちにとっては、細菌の恐ろしさは存在しない、いまここに運命の岐れ路があると認識できる人にとっては運命の岐れ路は実在するが、足下に運命の岐れ路を読み取れない人にとっては、自分がいま運命の岐れ路に立っているとの実感はない。」と明言されました。
AIエージェントの登場で様々な業界で「運命の岐れ路」に差し掛かっていると感じます。
税理士業界も例外ではありません。
現状維持バイアスという言葉がありますが、意思決定に関わる認知バイアスの一つで、変化や未知の選択肢を避け、現在の状況や慣れ親しんだ選択肢を維持しようとする無意識の心理的傾向を指します。人は変化による損失を利益より大きく見積もる傾向があり、現状から動く理由よりも現状にとどまる理由を求める心理が強く働きます。
しかしながら、テクノロジーの急速な進化は現状にとどまることを許してはくれないでしょう。
関与先が税理士に対して求めるものが変わっていく今はまさに「運命の岐路」だと思います。
変化を恐れず、その波をしっかりと捉え、乗りこなす事務所経営を共に目指しましょう!