インクライン2026.1・2月合併号 金融機関との連携を振り返るを掲載しました。
開始日:2026-01-01
金融機関との連携を振り返る
~会員事務所のブランディングへの地域会活動~
会長 佐藤正行
新年おめでとうございます。昨年はTKCそして地域会運動にご尽力賜り感謝申し上げます。また新しい全国会運動方針のもと順調に発進できましたこと、心より御礼申し上げます。
昨年のTKC全国役員大会では日本政策金融公庫の田中総裁が登壇され、「TKCファストリンク」の発表とTKC会員事務所との連携を訴えられました。政府系金融機関との連携、そして中小企業庁からは「予兆管理」という月次巡回監査と整合した方針の発表と、近年長きにわたり取り組んできた社会の納得活動が踊り場まで到達したと考えています。
今回の年頭所感は地域会と全国会が一体となって運動した金融機関を中心とした社会の納得活動について報告させていただきます。私が携わった以前の活動については推測の部分もあります。間違いがあればご容赦ください。
1.「金融機関交流会」の起源
近畿京滋会では今から28年前の1998年、対外PRプロジェクトとしての活動が一連の運動の原点であると記憶しています。旗振り役は海来先生でありました。そして金融機関交流会は全国初めての試みとして同年より開催されています。この京滋会主催の金融機関交流会が全国の地域会運動へと広がっていきます。当時のテーマは「関与先拡大」、その後「BAST贈呈式」と名称を変えながら交流会は続いていきます。当時は「中小企業支援」という社会的な施策もなく、TKCの金融機関への認識も低く、共通のアイデンティティーを模索しながらの活動であったと推測します。この黎明期にある意味逆風ともいえるなかでご尽力された先達会員の皆様に感謝申し上げます。
2.金融機関との連携始動
京滋会で金融機関交流会がスタートした11年後、2009年「中小企業金融円滑化法」が制定され、メガバンクが主導する経営改善が大企業から着手されました。その経営改善が中小・零細企業に降りてきた当時、税理士と金融機関が会計を活用して中小企業を支援する「中小企業等経営強化法」が制定され、「認定支援機関制度」が誕生します。この制度により初めて税理士と金融機関が実質的に協働する機会を得たのだと思います。そして認定支援機関制度制定の最初の仕事が経営改善支援、通称405事業でした。
全国会ではこの大きな機会を運命打開へと進めるため、7000プロジェクトが組織され、会員の実践と金融機関への啓蒙活動が始まりました。この運動を機に金融機関のトップ対談も企画されました。しかしながら当初はこの協働という作業にお互いが不慣れであり、金融機関との対話のなかでも両者の間には高い認識の壁が存在していたと記憶しています。会員の405事業実践の実績が増えるにつれて、金融機関から協働の声がかかるようになりました。2014年の金融機関交流会で、金融機関・保証協会・TKC会員の3者でパネルディスカッションが開催できたことは、まさに金融機関との連携の第2幕(第1幕は金融機関交流会の初開催)が開いた瞬間でした。認定支援機関という法の社会形成力そして会員の実践がその後の方向性を切り拓きました。
3.TKCモニタリング情報サービスと書面添付の定着
TKC全国会との提携企業である三菱UFJ銀行が2013年(当時名は三菱東京UFJ銀行)に融資商品「極め」をスタートさせ、2014年金融庁は従来の「経営改善・再建」から「事業性評価・情報の非対称性の解消」へ方向転換した行政方針を発表します。そして中小企業庁は405事業に続いてTKCビジネスモデルを範とした前期のポスコロを制定します。これらの外部環境の変化はTKC会員にとって大きな追い風となりました。坂本会長は書籍「中小企業金融における会計の役割」を発表し、事業性評価・情報の非対称性の解消と税理士とをリンクさせる運動を展開されました。この学術的活動のなかで親交を深められたのが政府系アドバイザーであり現在中小企業庁の要職に就かれている家森信善教授です。
同時に全国会ではトップ対談等でTKCの3種の神器(法33条の2の書面添付・中小企業会計要領・記帳適時性証明書)そして月次巡回監査が情報の非対称性の解消を可能にすることを金融機関に理解いただく運動を展開しました。しかしながら地域金融機関は「TKCの決算書は漠然と信頼できる」くらいの認識で、3種の神器が浸透するまで相当時間を要すると感じながら活動していました。この壁が動いたのが2016年に㈱TKCより提供されたTKCモニタリング情報サービス(MIS)です。当然狙いはTKCのしっかりした決算書・試算表は情報の非対称性の解消に値するものであるという土壌を全国に作ることです。(株)TKCが会員からも金融機関からもMISに掛かる料金を無料とするのはこの方針、つまりTKC会員事務所の業務を社会に知らしめるためなのです。当初会員からは「決算書を入手するのは金融機関の仕事、なぜ税理士がする必要があるのか」金融機関からは「うちはまだ紙での行内工程です。紙とデジタルという二重は困る」「新たなデジタル投資ができない」等の意見がありました。MIS普及のため会員へ何度も説明し、金融機関へは何度も足を運びました。2年間のこうした活動を経て、MISは徐々にそして急速に定着していきます。
会員のMISの実践により、行員の事業性評価の環境が向上すること、税務署と全く同じ決算書と内訳書であるため信用できること、デジタル送付により行内作業が簡素化されることが認識され、何より大きな転機は今までは埋没していた法33条の2の書面添付が行員の眼前に顕在化したことです。このことにより、税理士の資格をかけた制度である書面添付はその説得力を発揮し、決算書の信頼性を担保するものという認識が広がりました。このMISを機に商工中金が対話型当座貸越(2018年)、滋賀中央信用金庫がTKC経営者ローン(2019年)、滋賀県信用保証協会が短期継続融資保証(2019年)、そして京都信用金庫が絆(2019年)を発表し、京都信用金庫とは共同記者会見を開催し、「絆」を深めるための一斉合同研修会も開催されました。「事業性評価・情報の非対称性の解消」という金融行政方針を受けてのMIS定着に至る一連の運動が金融機関連携の第3幕であったと考えます。
4.金融機関と顔の見える関係
2022年に内閣府、金融庁、中小企業庁は「経営者保証ガイドラインの取り扱いの変更」を共同発表しました。この方針にはMISと書面添付が有用であることの理解を深めるため、全国会は金融機関の融資部・審査部との実務者協議会を展開し、116金融機関で実施されました。その結果、行内のチェックリストやマニュアル等に「TKC会員」「MIS」「書面添付」が記載され始めました。同時に現場の行職員との行職員研修会も展開され、全国2万名を超える行職員研修が今でも開催されています。京滋会では京都信用金庫・滋賀中央信用金庫に特に尽力を賜りました。そして金融機関交流会も支店長をはじめとする支店の行員を巻き込んだ大きな交流会へと進化してきました。国内最大の金融機関向けイベント(FIT)では、京都信用保証協会・京都信用金庫が「税理士との連携」でTKCとの取り組みを講演いただき、TKC会員と金融機関との「顔の見える関係」は深まっていると実感します。これら一連の「顔の見える関係」の構築が第4幕であったと思います。
5.社会の納得(TKCビジネスモデルへの評価)
家森教授は中小企業庁各委員会のリーダーとして現在活躍されています。金融機関における中小企業支援は税理士との連携が不可欠との方針のもと中小企業施策の舵取りをされています。昨年金融庁・中小企業庁から発表された「予兆管理」はまさに「月次巡回監査と月次MIS」に焦点が当たった施策であると認識しています。また庁内の各委員会・勉強会では「月次巡回監査・MIS・書面添付など」の用語が当然のように発言されていると伺っております。
2025年TKC全国役員大会では政府系金融機関である日本政策金融公庫の田中総裁自ら登壇し、「ファストリンク」を公表されました。この「ファストリンク」は下記の点で社会の納得活動の分水嶺を迎えたと感じます。
(1)全国2万件の融資案件を調査し、MIS・巡回監査等TKCビジネスモデルが実践されている融資先のデフォルト率が50%未満であることを日本政策金融公庫が認識したこと
(2)この分析結果を公表いただいたこと
(3)政府系金融機関がTKC会員だけに優遇融資制度を創設したこと
(4)北海道から沖縄に至るまで全会員が一律に優遇制度を活用できること
(5)実行実績で平均1.9日での融資決定であること
(6)中小企業支援という両者の目標が合致し、役割が明確になったこと
6.「TKC会計人 業務の未来設計」へ向かって
中小企業庁、政府系金融機関、地域金融機関におけるTKCの理解は加速度的に深まっています。そして我々TKC会計人に対する期待も大きくなっています。これら社会と金融機関からの期待に応え、その期待を事務所のブランディングにしていきましょう!
金融機関からの期待は事務所の大きな強みとなります。関与先、金融機関に事務所の取り組みを説明・啓蒙し、高付加価値事務所へ向かって発進しましょう!
結びに、会員皆様のご活躍とご発展を祈念し、TKCそして地域会運動にご尽力賜ることを心よりお願い申し上げます。