インクライン2025.11月号「変わりゆくもの変わらないもの~西田幸二先生を偲びつつ~」を掲載しました。
開始日:2025-11-01
変わりゆくもの変わらないもの~西田幸二先生を偲びつつ~
洛西支部長 大槻秀一
今は昔の三枚伝票
私がTKC会計事務所に入所したのは37年前の平成元年2月22日。借方、貸方もわからない私を雇ってくださった西田幸二先生には今でも深く感謝してます。
私の最初の仕事は巡回監査で回収した仕訳伝票(三枚伝票)をコンピュータV-85に入力することでした。学生時代にキーパンチャーのアルバイトをしていた私は、初日からかなりのスピードで入力ができ、褒めていただいたことを今でも覚えています。
ご存じない方も多いかと思いますが、三枚伝票とはFX2の伝票(1伝票型)とほぼ同じフォームで3枚の複写式になっており、1枚目は会計事務所入力用、2枚目は借方の枠が太く貸方は網掛、3枚目は借方が網掛で貸方の枠が太くなっており、2枚目3枚目を科目ごとに綴じ込んで総勘定元帳にするもので、税務調査では元帳をめくるのが面倒なので調査官からは嫌がられていました。
私の巡回監査デビュー
入社後1カ月で巡回監査に出ることになりました。
研修プログラムがあるはずもなく、いきなりのOJT。3カ月目からはひとりで監査に行くというハードな訓練を受けました。何も知らない若造が監査に行くことで、解約になった顧問先もありましたが、多くの社長はトンチンカンなことを聞く私にやさしく教えて下さり、監査後何時間も社長のお話を聞くことは珍しくありませんでした。
今でも20件ほど巡回監査に毎月伺いますが、現場滞在時間の多くを社長との対話にあて、最新業績、予実対比、決算予測、事業承継はもちろん、夫婦喧嘩やご家族の悩み事などもお聞きしています。社長には、会社でも家庭でも、本音を聞いてもらえる人がいないのです。
FX2の登場
平成元年4月1日消費税導入のあと、FX2の提供が始まりました。東芝製ラップトップコンピュータJ-3100GT(8ビット)の画面は赤オレンジ色でもちろんマウスはありません。電源を入れてから立ち上がるまでかなり時間がかかったのを覚えています。(古い記憶なので間違っているかもしれません。)
三枚伝票の起票を紙に書かずに画面に入力するだけで、伝票を三枚に分解し整理しなくても総勘定元帳が出来上がり、現金出納帳も日々印刷し金種表もついている。今まで試算表は会計事務所から後日郵送されてくるのが当たり前だったのが、監査後その場で最新の試算表を見ることができる画期的なシステムでした。(監査前データならば365日いつでも最新業績が確認できるコンセプトで作られていたが・・・
価格は、当時であれば軽自動車よりも高かったと記憶しています。リースを組んでいただいての導入でしたが、経理事務の合理化はもちろん、「自分のカン(勘)ピュータとコンピュータを合わせる日」として、毎月の監査を楽しみにしてくれる社長もおられました。
今も昔も継続MAS
平成8年11月、第11回TKC MASフォーラムがホテル日航東京で行われ、2日目の分科会で「TKC継続MAS支援システム実践事例発表」を西田先生が担当されました。
テーマは「事務所の体制構築」で、継続MASを特別なMAS業務としてではなく、毎月の巡回監査をより充実したものにするためのツールとして定着させるには、事務所の業務体制構築が必要であるという内容で、当時事務所で使用していた決算・申告チェックリストなどを紹介しながら、
1.監査担当者とパートタイマーとの分業化を明確にすることで、決算業務・月次監査業務をスムーズに行える体制を作ること。
2.継続MAS業務を無料化することで、全顧客に提供できる基本業務とすること。
3.自計化推進後の事務所の当然業務として、全ての監査担当者が操作できること。
などの話をされました。
レジュメの最後には、「社長は孤独。聞き手でよい」「社長と監査担当者が、共に一つの方向(会社の未来)を見て語れることができるツールである」「事務所の体制作りは、所長の専任業務」と結論付けされていました。
成功の鍵作戦21(KFS作戦)
平成11~17年にかけてTKC全国会で「成功の鍵作戦21」が行われ、西田先生が近畿京滋会のプロジェクトリーダーを務められました。それまで事務所では書面添付には消極的だったのですが、所長がプロジェクトリーダーなのだからやらないわけにはいかない。どうすれば業務負担が少なく書面添付ができるか等を従業員みんなで考え、決算・申告チェックリスト等の改訂を何度も行い、書面添付ができる事務所の体制を作っていきました。
TKC会計人のプライド
私がTKC会計事務所に勤務してきた37年間で、三枚伝票起票がFX2への入力に変わり、クラウド化によりこれからは入力さえもなくなります。事前確認業務と巡回監査が分離でき、現場での監査時間は大幅に短縮され、余った時間を保証業務、経営助言に使うことで今まで以上に関与先の業務改善を支援することができるようになります。 ただし、クラウド化により会計業務が楽になりFXクラウドシリーズで記帳代行を行うことも可能になります。しかしそれでは他社システムを利用しているのと同じことです。
ここで最も大切なことは関与先の「月次決算体制」構築を支援することです。「私たちTKC会計人は毎月貴社を訪問して、最新データで経営成績をわかりやすくご説明いたします。」これが私たちTKC会計人の公の約束です。月次巡回監査に基づく最新の会計データ(経営に役立つ情報)の提供はTKC会計事務所の最も誇れる業務であり、TKC会計人のプライドであるはずです。
未来の税理士への道には越えなければならない問題がまだまだたくさんありそうですが、「事務所の体制作りは、所長の専任業務」です。これからもTKC会計人のプライドで、関与先の「月次決算体制」構築支援ができる事務所を、共々に作っていきましょう。